笹沼裕二ウェブサイト

研究概要

Research 2

液晶分子の配向挙動とコンホメーション特性の解析

東京工業大学、通産省 工業技術院 物質工学工業技術研究所(現 産業技術総合研究所)、千葉大学での研究です。
<1988年~2004年>

液晶は芳香族環などからなる剛直なメソゲンとアルキル鎖などからなる柔軟なスペーサーが交互に結びついた構造をもつ。液晶相の安定性、相転移に伴う熱力学量の変化は、液晶場に対する剛直なメソゲンの配向秩序性や柔軟なスペーサーのコンホメーションに依存する。したがって、液晶の構造-物性相関の解明・分子設計のためには、分子配向とコンホメーションに関する情報を実験から導き出す方法(これを動的構造解析法と呼ぶ)の確立とその情報の蓄積が必要とされる。

ネマチック液晶場の鎖状分子この分野の論文リスト

このような観点から、ネマチック液晶溶媒中の鎖状分子から観測されるNMRプロトン-プロトン結合定数と重水素NMR四極子分裂幅を解析するためのモデルとして、鎖状分子の統計力学(Rotational Isomeric State (RIS) 法)に基づくシミュレーション法を提案し、それにより液晶中のn-アルカンの配向とコンホメーション特性を明らかにした。さらに、同様の解析法でネマチック液晶に溶解させたエチレンオキシドオリゴマー、n-デカン、1,6-ジメトキシヘキサンの配向秩序度とコンホマー分率を求めた。得られた結果が相転移挙動の熱力学的解析と整合することを示した。

シミュレーションに最大エントロピー法を導入し解析法の一層の高度化を図った。上述のネマチック液晶系にこの解析法を適用し、これまでの平均場理論による解析結果に整合するコンホメーション分率・分子サイズの評価値を得た。

最大エントロピー法でネマチック液晶に溶解した単量体、2量体、4量体液晶モデル分子のコンホメーション解析を行った。モデル化合物/ネマチック液晶系の相転移挙動の解析、2量体モデルの単結晶構造解析、分子軌道法計算も併せ、液晶場、結晶場がモデル化合物のコンホメーションと配向秩序性に及ぼす効果を考察し、相転移温度などに見られるスペーサー長依存性、いわゆる偶奇効果の起源を明らかにした。特に4量体モデルの結果から高分子液晶のコンホメーション特性を類推した。

【図】液晶モデル化合物の例。(a) 単量体、(b) 二量体、(c) 4量体モデル。これらのモデル化合物を液晶に溶解させ、重水素NMR測定、相転移観察、単結晶X線構造解析を行った。米国化学会の了承のもと J. Phys. Chem. B 108, 13163-13176 (2004) から引用。
【図】2量体液晶モデルの結晶構造。スペーサーのメチレン基数が (a) 3、(b) 4、(c) 5、(d) 6.メチレン基数が奇数のモデルは屈曲し、偶数のモデルは伸びた形状をとる。米国化学会の了承のもと J. Phys. Chem. B 108, 13163-13176 (2004) から引用。

研究制度

  • 科研費 重点領域研究「高配向主鎖型高分子液晶の設計のための基礎解析」(研究代表、研究分担:安部明廣) [平成元年度]
  • 科研費 一般研究(B)「サーモトロピック高分子液晶の高次構造の重水素NMRによる研究」(研究分担、研究代表:安部明廣) [平成3年度]
  • 科研費 基盤研究(C)「有機・高分子材料の分子設計のためのRIS解析法の高度化」(研究代表、単独) [平成11~12年度]
  • 泉科学技術振興財団 研究助成金「高分子液晶のための分子設計技術の開拓」(研究代表、単独) [平成13~15年度]
  • 科研費 基盤研究(C)「含ヘテロ元素高分子の発現する分子内・分子間相互作用の解明」(研究代表、単独) [平成14~15年度]

両親媒性分子の凝集構造この分野の論文リスト

ネマチック液晶系で開発した解析法を、オクタン酸ナトリウム/1-デカノール/水からなるリオトロピック液晶系に拡張し、この系が発現するヘキサゴナル、ラメラ、逆ヘキサゴナル相中の両親媒性分子の配向秩序性とコンホメーション特性を重水素NMRの測定・解析で明らかにした。

最大エントロピー法を上述のリオトロピック液晶系とオクタン酸ナトリウム/1-ブタノール/水のラメラ、ヘキサゴナル相にも適用し、従来の方法に比べ一層精緻な解析結果を得た。これら一連の研究でサーモトロピック・リオトロピック液晶に適用できる汎用性の高い動的構造解析法を構築した。

【図】オクタン酸ナトリウム/1-ブタノール/水の3成分系リオトロピック液晶の相図(左)。ラメラ相とヘキサゴナル相が形成される。1-ブタノール分子がとるコンホメーション。リオトリピック液晶の凝集体に含まれるとき(中)とサーモトロピック液晶に溶解しているとき(右)。米国化学会の許可のもとLangmuir 20, 665-672 (2004) から引用。

研究制度

  • 科研費 一般研究(C)「生体膜形成分子の重水素NMRによる動的構造の解析」(研究代表、研究分担:安部明廣) [平成2~3年度]
  • 科研費 基盤研究(C)「有機・高分子材料の分子設計のためのRIS解析法の高度化」(研究代表、単独) [平成11~12年度]
  • 泉科学技術振興財団 研究助成金「高分子液晶のための分子設計技術の開拓」(研究代表、単独) [平成13~15年度]
  • 科研費 基盤研究(C)「含ヘテロ元素高分子の発現する分子内・分子間相互作用の解明」(研究代表、単独) [平成14~15年度]
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